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道案内
第1章 道案内

「……」



田中宏樹(たなかひろき)は、ようやく彼女が家の中へ入るのを見届けるとほっと息を撫で下ろした。

結局彼女はインターフォンを鳴らすのに二時間もかかった。

「本当、相変わらずだ」

昔からそうなのだ。彼女は。



ドリンクバーで必ずオレンジジュースを選ぶ彼女────

運動神経がいい彼女に、ボウリングで負けた。そのとき、ガッツポーズで勝ち誇っていた彼女────

笑うとできるえくぼが好きだ、と言った彼女────

誕生日にもらった真っ赤なリストバンドに、センスなくてごめん、と謝った彼女────

結婚しようと言ったとき、泣いて喜んだ彼女────

結婚の挨拶のとき、緊張して二時間も家の前に立っていた彼女────

新居選びで、近所に公園があるこの家がいい、と言った彼女────

なんかおかしい、病院に行ってくると言ったときの不安そうな彼女────

医者から、若年性認知症と告げられた。
ヒロキのこと忘れるの、アタシ嫌だ、と泣いて喚いた彼女────



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