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第8章 物本 第9第



泣きそうな顔。



なのに、桜は無理に笑おうとしている。




「────…っ」




その表情に、俺の胸の中で何かが暴れる。





「今日は良い日でした」





言葉と、表情が合っていない。



ちぐはぐで



不自然。




こいつは、こうやって、いつも自分を騙そうとしている。





「今日はかずにぃが私のこと “桜" って呼んだんです」





再び無理な笑顔。




言っていることの意味が分からず、俺はジッと桜を見つめた。





「初めてキスをして……」





聞いてやらなきゃいけない。



でも、もう聞きたくねぇ。





ジリジリと、ずっと押さえ付けていたものが、暴れている。





「しかもね、お姉ちゃんが……」







そう言葉を続けた桜は、また緩く微笑む。









「目を覚ましたんです───」










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