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第21章 現実



そういえば、さっき幸が……



─────────── その子に優しくしすぎちゃダメよ



桜の言葉が、急に幸の言葉と重なって、なんとなく桜の言いたいことが見えてくる。


本当に何を不安になってるんだか…



「分かった」


「分かってない!」



言い返してきた桜は、また顔を近付けてふぅーーと深く息を吐いている。


泣いたり怒ったり喚いたり。


完全に酔っ払いのそれ、なのだが、むしろもっと見ていたいし、もっと色々聞き出したいとかずるいことを俺は考えている。



「どれだけモテるのかとか、知らないけどっ……!でもっ…」


「……バカか……こんなオヤジがモテるわけ──」


「───モテるのっ…!自覚ないみたいだけど店長はかっこいいのっ……っ…店長目当てでお店来る人もいるし…!でも」



「…………っ…」



かっこいいとか、この歳でも好きな女から言われると嬉しいもの、なんだな…。


にしても、こいつには俺がどう見えてるのか。


照れと呆れと、色々と混ざった気持ちでいると、桜は潤んだ目でじっと見つめてきた。



「でもっ……私絶対……誰にも……誰にも渡さないからっ……」


「…………………」



これは本当にまずいな。


そろそろ心臓発作で死ぬ心配をした方がいい気がしてきた。


苦しそうな桜は、俺の気も知らずいっぱいいっぱいな様子で目をぎゅっと瞑った。




「私……っ……がんばるっ……から」



その言葉に腑抜けてた俺もハッとした。


うまく伝わってない。


そもそも桜には頑張らせたくなかったから、だから葵を雇った。
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