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第23章 さ尊 章52第
「もういいから、帰るぞ」
差し出された灰皿の上でタバコを揉み消すと、桜は明らかに残念そうな顔をした。
「はぐらかさないでよ」
「そんなのいちいち覚えてねぇだけだ」
覚えてねぇってこともねぇんだが…
もう数年前になる、桜の初出勤の日。
確かあの日も幸が客として来ていた。
────────── ああいう子、いいんじゃない?
当時の幸の無責任な発言が脳内でこだまする。
すかしてるくせに、結構色んな表情を見せる桜が面白くて───
確か、閉店後に…
「て、て、んちょ、ぉ…」
カウンターから出ようとしたところで桜が声を震わせているのに、俺はハッとした。
「なんだ」
「きゃーーー!!!!!」
「っ……!?」
突然大声で悲鳴を上げながら、俺の元に駆け寄って腕を掴んできた。
「な、なんだよ、急に!」
驚いて見下ろすと、桜は微かに身体を震わせながら涙目で俺のことを見上げた。
「っ……」
不覚にもその表情に胸がドキっ…と鳴ったのを感じた。
「ゴ、ゴ、ゴキっ……」
「………あー」
全てを察して桜の視線の先を見ると、ゴキブリが触覚を動かしていた。