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第25章 ち持け掛 章72第






夜。


店の中、うぅと唸って伸びをする。


週の真ん中の平日でそこまで客は来ない。


胸ポケットに手をやると、いつものタバコ……ではなく昼間に買ったガムが入っている。


口寂しさに耐えられずに買ったわけだが流石に客の前で噛むのは気が引けている。


チラと時計を見る。


……あと30分。


今日も桜は来ない。


あいつがここで働き始めてからもう何年か経つが、結構シフトに入ってくれてたし、よく考えるとここまで会わないのは初めてな気がする。


今までは見えてたから良かったが、こうも全く様子が分からない状況だと体を壊してんじゃねぇかとヒヤヒヤする。


…………あいつは無自覚だろうが意外と真面目だし、変な負けん気があるから、無理をするに決まってる。



そう考えれば考えるほど、居ても立っても居られない気分になってカウンターの中をあちゃこちゃと無駄に歩いていたら、カウンターに座っていた客がフフッと笑った。



「なんだか、今日の達也さん忙しないですね」



スーツ姿の女は、長い髪をかき上げるとまたフフッと笑いながらグラスに口をつけた。


見たことがある。


少し前にも俺に話しかけて来た客で、名前は………




「………なご…み…さん」


「うわぁー覚えててくれたんですね!目の前座っても全然気付いてくれないから落ち込んでたんですよ」


「それは……すんません」



気まずさを感じながらも名前が合っていて胸をほっと撫で下ろす。


確か桜と付き合う前、結構グイグイとアプローチを掛けられて、店以外でも会ったが結局俺が桜を諦められず付き合いを断った。その後はここに来ることもなくなっていたはず…だが。


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