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第25章 ち持け掛 章72第



突然に荒ぶる葵から時計に目を移す。


もう閉店の時間だ。


周りを見渡せばもう客はいない。


ポケットからスマホを取り出した俺は、LINEの画面を開くが、もちろん桜からの連絡はない。


痺れを切らせて俺は『大丈夫か』とだけ打つ。



「ちょっと店長!!! 聞いてるんですか!?」


「…………うるせぇなあ」



そう言いながら、LINEの送信ボタンを押す。


そしてしばらくそのチャット画面を眺めるがそんなにすぐ既読がつくわけもなく、俺はそのままスマホを再びポケットの中にしまった。



「私、本気ですからね!? 桜さんを泣かせるような事をしたら────」


「──── しねぇよ」



葵の喚きを止めるように言葉を返す。



「浮気なんかする気力も暇もねぇし」



「…ちょっ…その言い方なんか気力と暇があればっ…」


「………俺に桜以外の奴のことを考える余裕があるように見えんのか」


「──────…」



ようやく黙った葵をチラと見た俺は、胸ポケットのガムを取り出す。



「…………お前は知らねぇだろうが、あいつちょっと前までいっつも辛気臭い顔をしてるようなやつだったんだ」


「え……? さ、桜さんが…」


「あぁ。完全なる自暴自棄。自分自身には全く価値がなくて、いつ死んだっていいし、何事もどうにでもなれって感じだった」


「…………っ…」


「俺は……そんな桜をどうしても笑わせたくて……。そりゃ俺も馬鹿だから色々とヘマもしたし、逆に桜を混乱させたりもしたが……それでもなんとか今を掴み取って、ようやく桜も笑うようになって……」
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