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第26章 惑疑 章82第



「上、行くか……?」



あからさまな俺の誘いに桜は、まんざらでもない様子で顔を紅らめる。


そして、俺のシャツに手を伸ばすとそのまま潤んだまだこっちをじっと見つめてきた。




「……行かない」


「……………」



……………は…い……????



予想外の桜の返事に思わず身体が固まる。



いや……え……?


仕掛けておいて、そりゃねぇだろ。


それにもうここでやめるなんてことは絶対に出来ない。


柔い怒りを抱えながらもどうしようかと考えあぐねていると、桜はさらに顔を紅くして俺のことを強く見つめた。



「我慢出来ない…っ…から」



「………─────」



「───── ここでいいっ…」




少し強引に引き寄せられると、再び顔が近付いた。



「───────……」




互いの熱い吐息が絡んで、今までにないほど興奮しているのを感じた、まさにその時だった。



カランと扉についているベルが鳴る。



その事にびっくりして、俺たちは飛び上がると共に一気に現実に引き戻される。





「お疲れさまです〜〜」



「………っ…お、おぅ」



おい…っ……まじかよ。




くるりと扉に背を向けた桜は、いそいそと少し乱れた服を直している。



やってきたのは声からして葵だろう。


慌てた俺は言い淀みながら、かつイライラしながら「はやいな」と葵に声を掛ける。



「はい、授業早く終わったのと、今日久々に桜さんが来る日だから」



そう言いながら、視線をずらし「あー!」と叫んだ葵は、満面の笑みで桜に駆け寄った。




「桜さーーん! お久しぶりです! ちょーー会いたかったですー!」



「ひ、久しぶり」




同じく言い淀んでいる桜は、必死に手で髪を整えている。



楽しそうに話す2人を横目に見ながら、俺は人生で経験したことがないほど悶々としていた。
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