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第26章 惑疑 章82第
間が開いた後、桜は少し言葉を震わせながら、「いや、」と言葉を続けた。
「もう…出ちゃってて。家にいなくて」
「─────────…」
明らかな嘘に、俺は言葉を失い思わず目を見開く。
視線の先の開いたカーテン。
そして微かに動く物影……
「…………そう、か」
やっとこさ放った言葉は自分でも分かるほど力ない。
「すみません。あと……次のシフトなんですけど、ちょっとおばさんの病院に付き添わないといけなくなっちゃって」
裏返った声が変に胸に沁みる。
『おばさん』か……
今考えると何も疑いもせずに信じていた自分が阿呆らしい。
「………分かった」
「すみません」
「いや…」
謝られる意味も分からない。
何のための、誰のための嘘なのか、まったくもって理解が出来ない。
分かっているのは桜が俺に嘘をついて、北野と会っているということだ。
「忙しい時に…悪かったな」
「こちらこそ…」
「また、落ち着いたら……話そう」
なるべく落ち着こうと思ってもジリジリと胸が焼けているせいで、声が震えてしまう。
「はい……」
「じゃあ」とそっけない挨拶をして、俺はなるべく素早く電話が切った。