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あの星に届かなくても
第3章 非日常のくぼみ

 午後のワイドショーが取りあげているのは、著名人の不倫騒動。

「最近こんな話題ばっかりだね」

 玄関ホールを挟んでリビングの向かいにある十畳の和室で、こたつに脚を忍ばせながら慧子は言った。
 テレビの中では、胡散臭い眼鏡のコメンテーターが偉そうに見解を述べている。同じ眼鏡姿でも市川とは大違い、と、いちいち比べるようになってしまった自分にそっと苦笑する。

「チャンネル変えてもいいよ、おばあちゃん」
「はいよ」

 いつもの調子でのんびり返事をした祖母は、皺だらけの手でリモコンを取り、慧子を気遣ってつけていたチャンネルを公共放送に変えた。

「慧ちゃん、これ食べな」
「うん。ありがとう」

 手渡された柔らかなみかんの皮を剥き、一房取って薄皮ごと口に入れる。瑞々しい甘さと爽やかな酸味が口内に広がった。
 祖母がこの部屋にいるとき、慧子はよくこうして一緒に午後の時間を過ごす。お茶を飲み、お菓子――冬はみかんばかり――を食べながらテレビを見て、ぽつぽつと会話をすることもあるが、たいていは互いに多くを語らずゆったりとした空気に身を任せる。

 畑いじりが趣味だった祖父が、亡くなる半年前に体調を崩しすっかり外に出なくなってしまってから、祖父母はよくここで二人静かに過ごしていたという。
 その様子はまるで、これから別々の場所に引き離されることを惜しむ恋人同士だったそうで、『おばあちゃんがおじいちゃんと一緒に逝っちゃうんじゃないかと思ったわ』――と、祖父の葬式の日に母が涙ぐみながら教えてくれた。

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