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あの星に届かなくても
第3章 非日常のくぼみ
テレビに見入るその丸い背中を見守りつつ、携帯電話でネットニュースを徘徊する。ふと、ある興味深い記事に辿り着いた。
『地球の三十光年先に地球型惑星を発見。太陽系外生命体の発見なるか?』――。
水瓶座の方向約三十光年に位置する恒星が、地球サイズの惑星を七つ持ち、そのうち三つには地表に液状の水が存在する可能性がある。ハビタブルゾーンと呼ばれる、宇宙で生命が誕生するのに適した環境と考えられる領域に位置するその三つの惑星には、地球と同じようになんらかの生命が存在しているかもしれない。という内容だ。
慧子は、三十光年がどのくらい遠いのかを調べてみることにした。検索バーに『光年』と入力し、検索結果を見ていく。
まず、光の速さは毎秒約三十万キロ。地球を一秒で七周半する計算になる。一光年とは光が一年かけて進む距離のことで、約九兆五千億キロ。そんなにも速い光が三十年かけてやっと到着する距離とは、とんでもなく遠い、としか言いようがない。
現在の科学技術では光速を超える速さのロケットは作れない。だから、その星が地球とよく似ていて、もしそこに生命体が存在していても、そもそも地球人が生きてそこへ行くことは実質不可能なのである。
そこにあることはわかっているのに、とうてい手が届かない。宇宙の広さを想像し、今自分が存在する世界の大きさなど取るに足りないものなのだと思い知ったとき、人は地球の外の世界に夢を抱くのかもしれない。
深く考え込んでいると、手中で携帯が震えた。画面には『望月紘也』とある。兄の紘也(こうや)だ。東京の企業に勤める兄は、そちらで知り合った女性と二年前に結婚して二人で暮らしている。
「なんでこの時間……」
平日の午後二時。普通の会社員である兄が勤務時間中にわざわざ電話をかけてくるなんて、緊急事態としか思えない。