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あの星に届かなくても
第1章 それぞれの夜
「やっぱフル電動かっこいいですねぇ」
「はは。喜んでもらえてよかったよ」
「大満足です」
笑みを返し、慧子も自身の車のエンジンを切る。寒さはもう少しだけ我慢しようと思った。
互いに運転席に座ったまま静寂に包まれる空気の中、天を仰いだ市川が、お、と低い声を発した。
「すげぇな、今日は」
「ですよね。一段と」
「星がゴミみたいだわ」
「なんですかそれ」
「え、思わない?」
仕事中には聞いたことのない砕けた話し方に笑みを誘われ、慧子は小さく噴き出した。隣の車からも、ふっ、と静かな笑い声が聞こえた。
「そろそろ二ヵ月になるか。職場には慣れてきた?」
「はい。みなさん優しく教えてくださるので助かってます」
「いや、覚えが早くてこっちが助かってるよ。他のパートさんたちともうまくやってくれてるし」
「そうですかね……。お役に立てているなら、よかったです」
「うん」
心がほっこりと温かくなったかわりに、寒さが身に沁みてきた。毛布の中で小さく身震いすると、それに気づいた市川がこちらに顔を向ける気配がした。
「……そろそろ走りにいこうかな」
「あ、じゃあ私は帰ります。すみません、引き止めちゃって」
「こっちこそごめん。寒かったよね」
「全然。市川さんの車がオープンしてるとこ近くで見れたし、ここで誰かと話すの初めてだったし、新鮮で楽しかったです」
「そうか。俺も楽しかったよ。じゃ、また明日」