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甘党な愛
第16章 十六

 ――その翌日も、翌々日もベッドメイキングの時間になると八雲から口付けられ、私は嬉しいながらも複雑な気持ちだった。

「……」

 八雲は何で私にこんなことをするんだろうか。どう考えても、元婚約者を忘れる為だよな……。きっと寂しさを紛らわす為に……。

「はぁ……」

 そう考えると、ため息出てきた。午前10時。庭を箒で掃きながら、ぼんやりと八雲のことを考える。――急に声がすると、ハッとしたが。

「お久しぶりです。藤咲君……いや、藤咲椿さん」

「鬼沢さん……どうしたんですか?」

「貴方が女だと聞いて驚きましたよ。僕を騙していたんですね」

 何処から入ってきたんだろう。屋敷の門は施錠していた筈。それとも、葎がバイト行く時に鍵を掛け忘れて?

「貴方が恵と籍を入れて、家も色々大変でした。そこで、貴方を調べさせて貰ったんですが……」

 突然正面に現れて淡々と話す鬼沢さんに驚きながら私が黙っていると、鬼沢さんが鞄からA4サイズ程の茶色い封筒を取り出して差し出してくる。開けて見てみると、私の顔写真がついた紙が数枚入っていた。

「椿さん、藤咲グループのご息女だったんですね。家出というか高校生の頃に勘当されて家族とは疎遠になっていると、調べて分かったんですが。それが証拠です」

「……」

 鬼沢さんの言葉に、箒を両手で握り締めたまま冷や汗を滲ませた。
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