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園主の嫁取り(くすくす姫サイドストーリー)
第3章 長老会議
「皆様。私は、この家に仕えるものでございます。この家の為に働き、尽くすことのみを使命とし、喜びとして参りました。」
長老の間を回っているのに、絨毯を踏む足音さえ立てません。
「レシピはこの家の長年の蓄積の結晶。家の宝です。ですが、レシピ通りに作っても、同じものができるとは限りませぬ」
俯いている者、そっぽを向いている者、構わずに皿を下げて行きます。
「人の心に訴える最後の鍵は、同じく、人の心なのです。…サクナ様、」
そして最後に、サクナの前で立ち止まり、呆然としている彼の目を見て言いました。
「貴方様は、お変わりになられた。……もちろん、我が家にとっても、好ましい方にでございます」
クロウはサクナの前の皿を下げながら、続けました。
「スグリ姫様がどんな魔法をお使いになる方かは存じませんが、貴方様をこのようにお変えになった。それだけでも充分、諸手を挙げてこの家にお迎えするに値します。こちらにお揃いの皆様も、先程賛同してくださいました。どうぞ嫁御さまを、お迎えください。」
「……有難う、クロウ」
「そのようなお言葉は無用に御座います。私の仕事は、この家の財産を守ることでございますので」
サクナの言葉は珍しく震え、クロウの声は珍しく、笑みを含んでいるようでした。
「得難い当主も、当主の選んだ奥方様も、この家の財産で御座います。何か言うものがありましたら、私共この家に仕えるもの全員が黙っておりません。全力でお守りいたしましょう」
長老達にそう宣うクロウの姿は、サクナのゆらゆらと歪んでしまった視界では、はっきりとは見えませんでした。
ただ、なぜか、「力を欲する連中は徹底的に捻じ伏せろ」と言った時の先代の姿が、彼に重なって見えるような気がしました。