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園主の嫁取り(くすくす姫サイドストーリー)
第4章 園主の嫁取り
*
「じゃあ、行って来る。なにか急ぎの事があったら、使いを寄越してくれ」
長老会議を終えた後、死んだように眠ったサクナは、突然起き上がって食事を摂ったかと思うと、すぐに都に向かう、と言い出しました。
サクナにとっての最大の目的であった長老会議での嫁取りの宣言が片付いた今、スグリ姫より急ぎの仕事など、何も残っていなかったのです。
「もう少しゆっくりなされても」
「悪いな。『必要なことだけ片付けたらすぐ帰る』と約束して来ちまったんだ」
急な出発を見送りながら、彼にしては珍しく呆れたようにぼやくクロウに、サクナもまた彼には珍しい笑顔で答えました。
「奥方様とのお戻りを、お待ちしております。」
「ああ」
スグリ姫がこの地に来ることになれば、名実共にここが彼の帰る場所となります。
(お前は俺に故郷までくれやがったのか)
ようやく一点の曇りも無い状態で姫を迎えられると思うと、サクナは喜びで背筋がむずむずする様な気がしました。
「じゃあな、クロウ。留守を頼んだ」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
家令に見送られ、イチジクの入った瓶を懐に仕舞ったことを確かめて。
果物園主は急いでこの地を発って、帰りたい唯一の場所へと赴いたのでありました。 【おしまい!】