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園主の嫁取り(くすくす姫サイドストーリー)
第2章 夜番とプリザーブ
「これ、どうします?」
新人がサクナに「やるよ」と言われた鍋を指差しました。
「イチジクを賜ったことなんて有ったか?」
「食べても、大丈夫でしょうか」
「家令様に怒られないかな」

イチジクは食べ頃が短い果物です。
生で食べるときも食べ頃を見極めるのが難しいのですが、調理するときは果実の形や皮の性質、灰汁などのために、更に扱いが難しいのです。
なかなか手強い食材であり、それ故に、プリザーブなどは特に貴重なものでした。

「だが、またとないチャンスだぞ」
「ああ」
限られたものにしか許されていないレシピで作られた、賜り物です。
今までも、サクナが作った残りを味見して秘訣を盗むということは、ここでの修行の一環として、認められた権利ではありました。
「よし。とりあえず、瓶詰めを作って食料棚に置いておこう。残りは味見しよう」
「ああ。」

三人は鍋の蓋を開けて中を覗き込んで、一様に溜息を吐きました。
「……別人じゃないな」
「ああ、別人じゃない」
「別人でこれが作れたら、魔法ですね……」

一人が誘われるようにイチジクをひとつ取り分けて、口に入れて、頷きました。
「味も完璧だ。」

二人目が口に入れました。
「俺は今、楽園を見ました……」

三人目が口に入れました。
「一生修行しても同じようにゃ作れねえ事が、むしろ幸いな気がするな……」

「こりゃ、術もすり替えも無ぇな。」
三人はそう頷くと、瓶詰めを作り片付けるために、手分けして作業を始めたのでした。
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