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園主の嫁取り(くすくす姫サイドストーリー)
第3章 長老会議
「嫁がスグリでは、不満か?」
「都は大きな市場ではありますが、放っておいても富が流れてくる地です。外から嫁を取るならば、もっと他にふさわしい先がありましょ……」
「スグリは、儲けの道具じゃねえ!!」
我慢がならなくなったサクナは、大声を出し、机を叩いて立ち上がりました。

「長老方の仰せの通り、俺は拾って貰った身だ。俺を道具として見るのは構わねぇ、そのくらいは先刻承知だ。だが」

(すまねぇ、スグリ)
(それでも俺はお前が欲しい)

「……あいつは違う、道具なんかじゃねぇ。俺は、あいつ以外の嫁は要らねぇ。どうしても無理だというなら、俺をさっさと首にしろ」
「それはできない相談でございます」
「貴方様はご自分の価値をお分かりでは無い」


(てめぇらの考える俺の価値なんざ、てめぇらの利益になるもんだけで、いくらでも替えが利くもんだろうよ)
(だが、スグリはそうじゃねぇ。俺にとっても、スグリにとっても、替えなんか、どこにも、)

固く握られたサクナの拳は、力が入る余り、小さく震え始めておりました。
……そこに。

「皆様。私からも、宜しいですか。」
「クロウ」
議決権を持っている家令のクロウが、声をかけました。
「クロウ、何か意見があるのか?」

「はい。」
クロウは盆の上に皿を乗せたものを持ち、長老に給仕をして回りました。

「サクナ様は都へ行かれて以来、すっかり人が変わられました、」
一枚一枚、皿を置いて回ります。

「あまりにも変わられてお帰りになったので、私たちは目を疑いました。」
長老の中には、嘆かわしい、というように頷いているものも見られます。

「今迄のような一分の隙も無い仕事振りは、消え去りました。」
家令の言葉に長老たちはひそひそと言葉を交わし、サクナは眉をひそめました。

「以前のサクナ様から、『うっかり』などと言う言葉を聞いたことがありましたでしょうか?」
それを聞いたサクナはつい口元を緩めてしまい、慌てて素早く引き締めました。
「うっかりしちゃったー!」というのは、彼の最愛の婚約者の、可愛い口癖だったのです。

「……こちらを召し上がって頂ければ、皆様もご納得いただけると思います。」
ことり、と小さな音を立て、最後の皿が置かれました。

長老達の前には、それぞれ、イチジクのプリザーブの乗せられた、二枚の皿がありました。
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