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籠鳥 ~溺愛~
第20章
その日の夜中。
日付が変わるころ、鏡哉が帰宅した音で美冬は目を覚ました。
自分の部屋のベッドの中で美冬は目を閉じたまま硬直する。
静かな音がしてドアが開かれ、絨毯の上をこちらによって来る控えめな足音が聞こえる。
「おやすみ、美冬」
そう囁く声が近くで聞こえたかと思うと、額に温かい何かが触れる。
鏡哉の足音は遠ざかり、パタンとドアが閉められた音がした。
「………」
美冬は額に手を当てると、静かに寝返りを打った。
(ごめんなさい、鏡哉さん)
無意識に止めていた息を吐き出す。
鏡哉に顔を合わせ、普通にふるまえる自信がなかった。
鏡哉の従妹に美冬が似ていたから、自分を好きになったかもしれないこと。
鏡哉がアメリカに異動になること。
自分の大学進学のこと。
考えなければいけないことは山ほどあるのに、うまく考えが纏まらない。
鏡哉が虐待を受けていたことや、恋人と死に別れていたことも衝撃的だった。
しかし今となれば、納得のいくこともある。
鏡哉の恋人になってから知ったことなのだが、鏡哉はたまに悪夢にうなされていた。
多分それらの過去が原因の一因であろう。
鏡哉の苦しみは自分が傍にいることによって、軽くなるのだろうかと思う。
(鏡哉さんの気持ちは、鏡哉さんにしかわからないけれど――)
少なくとも自分と一緒にいるときの鏡哉は、とても幸せそうに笑ってくれていると思う。
ただ、それが相手が美冬だからなのか、元恋人に似た自分だからなのかは分からないけれど。
(考えてもしょうがない。ただ、私は鏡哉さんを愛していることだけは自信を持って言えるから)
そして鏡哉は自分のアメリカ転勤を知ったらどうするのだろう。
きっと転勤を断るという選択肢はない。
断るということは、あの会社にいられないということを意味するだろう。
美冬は鏡哉がどれほど今の仕事にやりがいを感じているか、分かっているつもりだ。
いつも口では「会社より美冬が大事」と言いながらも、たまに仕事の面白話をしてくれる彼の表情はとても生き生きとしているのだ。
(じゃあ、私は? 私は鏡哉さんのように生き生きと打ち込んでいるものはある?)