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籠鳥 ~溺愛~
第2章  

(優しい人なんだな――)

 美冬はあまりに拒むのもあれで、言われた通り掃除に取り掛かる。

 5LDKの部屋の掃除は1時間以上かかった。

 手早く海鮮鍋の準備を済ませると、ダイニングではなくリビングのローテブルにセットする。

 そして当たり前のように鍋をつつき始めて、美冬ははたと我に返る。

「あ、そういえば私って家政婦ですよね?」

「うん、一応」

「なんで一緒にご飯食べているんでしょうか?」

「いいんじゃない、私が良いと言ってるんだから」

(そ、そういうものかな?)

 美冬は少し引っかかったが、元来あまり深く物事を考え込まないタイプであり、あっさりと鏡哉がいいならいいかと食べた。

 片づけをするのも鏡哉は手伝ってくれ、あっという間に片付いた。

「後は自由にしてくれてていいよ、勉強あるでしょう?」

 時計を見ると20時だった。

 まだ勤務時間まであると美冬は言ったが、鏡哉は「ここで勉強しなさい」と言って聞かなかった。

「私もここで仕事するから、何かわからないところあったら聞きなさい」

「はい、ありがとうございます」

 美冬はお言葉に甘えて出されている宿題に取り掛かる。

 高校に進学し、バイトを始めてからというもの、復習の時間が取れず成績は下降気味だった。

 うんうんと唸りながら宿題をこなしていると、ふと鏡哉の視線を感じた。

 顔を上げると鏡哉と真正面から目が合う。

「コーヒーでも入れましょうか?」

 そう尋ねると、珍しくぼんやりしている様子の鏡哉は首を振った。

「いや、勉強している美冬ちゃん、可愛いなあと思って――」

「え゛っ……?」

 ぼそりとこぼされた鏡哉のそのつぶやきに、美冬は変な声を上げてしまう。

 そして意外なことを口にした鏡哉自身も、はっと我に返ったようで少し苦々しそうな顔をして視線を逸らせた。

「………」

 二人の間に沈黙が落ちる。

(あれだな〜、鏡哉さんて、本当に優しいんだ。家政婦にまでお世辞を言ってくれちゃうなんて)

 美冬はハハハと乾いた笑い声を上げて、再び宿題と格闘した。


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