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籠鳥 ~溺愛~
第4章
「申し訳ありません、伊集院さん」
鏡哉は腕を解きもせず、やんわりと謝ると、伊集院をエスコートして階段に戻ろうと美冬に背を向ける。
(やだ、行っちゃやだ――!)
「美冬ちゃん?」
うつむいた美冬に、上から鏡哉の声が降ってくる。
(え……?)
美冬に背を向けていたはずの鏡哉が、こちらを不思議そうに見つめている。
美冬は無意識に鏡哉のスーツの裾を握りしめていたのだ。
「ご、ごめんなさい」
美冬は小さな声でそう謝ると、椅子に座った。
「すぐ戻るから」
あいているほうの手で美冬の頭をくしゃりと撫でると、鏡哉はそのまま階段を上がって行ってしまった。
(なにやってるの、私ったら……きっとあの女性は、鏡哉さんの仕事関係の人なのに、きっと変な印象を持たれてしまった――)
その後、数分で鏡哉はテーブルに戻ってきたが、美冬は自己嫌悪で俯いてばかりで、最後に出された小菓子をつまむ気にもなれなかった。
そんな態度の悪い美冬に愛想を尽かしたのか、向かいの席から小さな溜息が聞こえ、美冬はおびえたように小さく震えた。
鏡哉が頼んだらしい代行が車を持ってきてくれ、数十分もしないうちに二人はマンションに戻ってきていた。
美冬はまだ落ち込んでいたが、家政婦の仕事をしないわけにはいかない。
いつも通り鏡哉のジャケットを脱がせると、ブラッシングして、クローゼットへと直す。
「美冬ちゃん、こっちおいで」
シャツとネクタイになった鏡哉が、リビングのソファーに座りながら、美冬に手招きする。
(怒られる、のかな……)
しかしどう考えても悪い態度をとったのは自分だ。
美冬は決心して鏡哉の目に前に歩み寄り、立ち止まった。
鏡哉は真っ直ぐ美冬を見つめてくるが、美冬は目を伏せた。
「すみません……」
「うん」
「伊集院様に対して、好ましくない態度を取ってしまいした」
「うん」
「………申し訳――」
「どうして?」
「え?」
再度謝ろうと腰を折ろうとした美冬に、鏡哉が口をはさむ。
「どうして、あんな態度を取ったの?」
「………っ」
そう問い詰められ、美冬は言葉に詰まる。
(言える訳……ない。鏡哉さんにべたべた触るあの人が、嫌だったなんて――)
「許して、下さい……」
美冬は深くお辞儀をして許しを請う。