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陽向の恋
第8章 エピローグ
翌朝7時、部屋のドアがノックされて、ドアを開ける。と、廊下に課長が立っていて、困惑した。
「加地課長?おはようございます……」
昨日の今日で、顔を合わせ辛い。そんな私と同じ気持ちなのか、加地課長の表情は落ち込んだように普段より暗く、しゅんとしている。
「おはよ……三浦、その……昨日はすまん。酔ったとはいえ、マナーに欠ける行為だった……」
「大丈夫です。……そういえば私も、課長にお話があって……」
「話?何だ?」
私の言葉を聞いてホッと安心したように表情を和らげる課長。だが、続けた私の言葉を聞いて、
「黙っていてすみません。私、戸塚君と付き合っているんです」
「とっ?!づ!か!とか?!」
目の玉が飛び出し、顎が外れるかと思うぐらい、驚いた。そのまますぐに私の両肩を強く掴む課長は、大学受験の難題でも解く様な顔をしている。
「何で戸塚なんだ!そうか!従兄弟だからか!お前、身近な戸塚しか知らないんだな!」
「そういうわけじゃ……」
「戸塚以外知らないんだろ?だったら俺が……」
色々と教えてやる……そう続けて言った時だった。
「苗ちゃんはね!身近だから戸塚君を選んだわけじゃないんですよ!分かります?!これが、運命ですよ!昨日だって苗ちゃん、部屋を抜け出して戸塚君の部屋へ……!」
私の後ろで花菜が話し出し、余計なことまで言おうとする。その口を慌てながら手で塞ぎ、私は加地課長へ頭を下げた。
「そういうわけですから、課長、これからも私の素敵な上司でいてください……!」
「ああ……」
花菜、急に何を言い出すの。というか、昨日陽向の部屋へ行ったこと気付いてたんだ。加地課長も説得出来たし、花菜のおかげだけど。
「……まだ諦めきれんが、今は、身を引く……」
そう言って部屋のドアを閉める課長。その光景に私は安堵して、花菜の口から手を離した。
「ありがとう……花菜」
「ガッテン承知の助!」
「ガッテン承知の助って……」
何だそれ――
「花菜、大好き」
ニコニコ微笑みながらわけの分からない言葉を発する花菜へ一瞬無表情になるも、私もにこやかに微笑んだ。何はともあれ、旅行楽しかった。まだ松山城が残っているけど、きっと楽しいだろう。そう花菜の笑顔を見ていて、心から思えた。