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スグリ姫の試練(くすくす姫後日談・その3)
第6章 六週目
「ううん。私がうっかりしてたのよ。…でも、なんか懐かしい。子どもの頃も、こうやってもらったことがあったわね」
「ええ。姫様、お転婆でしたからねえ」
時々ベラの家に遊びに来てはバンシルや兄達と走り回って日が暮れるまで遊んだことを、姫は懐かしく思い出しました。
「子どもの頃は、よかったなー…」
子どもの頃は、何日も続くような大きな悩みなど、ほとんど感じていませんでした。
何か困ったことがあっても、一晩寝ればおさまったものです。
今の姫のように、目の前に居ない人なんかのことで気分が上がったり、下がったりするようなことも、なかったのです。
ベラはそんな姫を見て、隣に座って、言いました。
「姫様。姫様は子どもの頃に戻れるとしたら、戻りたいんですか?」
「……うーん……」
ベラに聞かれたスグリ姫は、いろいろなことを思い返しました。
色々思い返した中でも、この夏から今までにあった出来事は、スグリ姫にとって、色取り取りの宝石の珠のようでした。その中には、子どもの頃には思いもしなかったような悲しいことや切ないこともありましたが、子どもの頃には想像することもできなかったような深い悦びや、体の隅々まで満たされるような嬉しさも、数え切れないくらい、有ったのです。
「…ううん。今の方が良いわ、ベラ。」
それを聞いたベラは、姫のほっぺたを、両手で柔らかく包みました。
「姫様。結婚に大切なのは、よく見ることと、勢いと、最後は、度胸です」
「どきょう…」
「お小さい頃、あそこの橋の上から川に飛び込んだことを、思い出しなさいませ」
ベラは、この辺の子ども達がよく遊ぶ、川の方を指差しました。
昔から、10歳の夏にはその川にかかっている橋の上から飛び込む、という度胸試しの風習がありました。スグリ姫はみんなが止めたにもかかわらず、周りの目を盗んで川に飛び込み、そのあとベラや王や大臣に、散々小言を言われたのでした。ちなみに、そんなことをしでかした「良いウチの子」は、後にも先にも姫だけです。
「飛ぶ前に考えていたよりも、飛んでしまえば、へっちゃらだったでしょう?婚約者様と一緒なら、あれよりずっと容易い事のはずですよ。」