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第8章 七週目と、その終わり

「……わりぃ……」
「悪いって、思ってない癖にっ！」
体を拭き終えて布団をかけると頭の方に移動して、熱くなってるおでこを拭いて、そこもぺちんと叩いておきました。

「従者の方が言ってたけど、ちゃんと休めば治るんでしょ？熱下がるまで、もう絶対しないからっ！ちゃんと休んでっ！！」
姫は精一杯ぷんぷん怒りながら言ったのですが、サクナが反応したのは姫の言葉の最初の部分でした。

「…従者？…」
「うん。付いて来て貰ったんでしょ？私より年下くらいで、銀髪で灰色の…猫みたいな目の」
従者は本人の言葉通り、少し目を離した間に、気付いたら姿を消しておりました。
もうお帰りになったわよ、と姫が言うと、サクナはぼそっと呟きました。
「…あー…あいつ、また…そうか…」

そこで声が止み、サクナがケホッと咳き込んだので、姫は慌てました。
「大丈夫？お水、飲む？」
「…ああ…」
「…ちょっと待ってて。」
姫は先程と同じように、自分の口に水を含むと、口づけて水を注ぎ込みました。
「もっと飲む？」
「…ああ。」
「ん、待ってね」
姫がもう一度同じ事をすると、サクナは水を飲み終わった後に姫の頭の後ろに手を回し、舌をするりと絡めてきました。
「んっ…！っだめだめだめっ、だめなんだからっ！ダメ、絶対っ！」
「…クソっ…」
姫が両手で押しのけると、サクナはまたぐったりと寝台に沈みました。
ぐったりしては居りますが、ちょっとは元気が出たのかな、と姫は少しほっとしました。
「寝て。ちゃんと寝て。…私、ここに居るから…ね？」
「…ん。」
いかにも熱のありそうな不機嫌顔で、サクナが手をぱたりとこちらに寄越して来たので、スグリ姫は両手でそれを握りました。
「…スグリ？」
「なぁに？」
「会いたかった。」
サクナは姫の手を握り返しました。
「うん」
「すげえ会いたかった。」
そう言うと握った姫の手の片方を、自分の方に引き寄せました。
「ん。」
「…やっと会えた。」
手の甲に口づけて、そこに熱いおでこをつけました。
「うん。」

姫は空いた方の手でサクナの頭を撫でながら、ほんの少しだけ笑いました。
「お誕生日までには、元気になってお祝いしてね。」
「…ああ。」
「…熱が下がるの、イイコで待ってる。」

スグリ姫はそう言うと、愛しい人がいつも自分にするように、手で撫でていた髪のあたりに、ちゅっと口づけを落としました。