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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

怜二さんは真剣な顔だった。
だからわたしは、どういう顔をしていいのかわからず瞳をそらすと、怜二さんは苦笑した。
「すまない。きみのペースに合わせると、約束したのに……」
実は彼から結婚話を打診されるのは初めてではない。
婚約指輪も貰ってはいるのだ、結婚してもいいと思える日が来たらしてくれと。
嬉しいか嬉しくないかと聞かれれば嬉しいけれど、実際わたしは、今がこうして楽しくて幸せを感じているのであって、未来がどうのというのは考えられていなかった。
考えられないのだ、わたしが結婚して家族を作るのは。
「誤解しないで」
わたしは彼に抱き付く。
彼はわたしを胸の中に引き寄せると、背中に手を回しさらにぎゅっと抱きしめて、甘く囁く。
「わかってる。きみは仕事が楽しいんだろう? わかっているよ。これでも俺はきみの上司で、きみをずっと見てきたのだから」
仕事は楽しいけれど、それが原因ではないのだ。
だけどわたしは口を噤んで、心の中で謝る。
「あんまり俺を焦らすなよ。焦らされ過ぎると、拗ねちゃうからな」
笑うわたしの唇は怜二さんに塞がれ、ねっとりとした彼の舌がわたしの唇を割って口腔内を凌駕すると、ぞくぞくとした甘い痺れが背中に走った。
甘い声を漏らしながら舌を絡めて唇を離すと、彼もわたしも情欲の炎を瞳の奥に宿している。
「また、抱いていい?」
怜二さんが笑いを消したオスの顔になり、布団を剥いでわたしに覆い被さる。
それに応えたいのに、反応のない身体を恨めしく思いながらも、無粋な言葉を告げるのだ。
「ごめん、怜二さん。トイレ行かせて……」
そしてわたしは、素直な自分になれずに、彼に抱かれる。
偽りの蜜を纏いながら。

