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アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ
「だから私、杏咲ちんが狙われていると思って、何度か間に割って入っていたの。そうしたら凄い目で睨まれたわ。多分嫌われていたと思うよ」
……香代子にはシグナルを受け取れていたのだ。
わたしだけが感じ取れなかっただけで。
「さてさて、あのふたりは今頃どうしているか」
香代子はどうでもいいとでも言いたげに鼻を鳴らした。
「……それはそうと、タツミィ、結婚破棄を宣言したの?」
「午前中に、元社長に断ったみたいだわ。元々解消が前提なの、社長達もわかって了承していたみたいだから、揉めはしなかったみたい」
「娘の結婚がなくともアムネシアに入れたんなら、親孝行な娘よね。お義母さまにも?」
「ううん。義母に言うのは時期を見ているようよ。元々わたしの存在に過敏だから、変に疑われて暴れられたら、手のつけようがなくなるからって」
「うわ、メスキングコングか。今なにを?」
「よくは聞いていないけれど、同業のお偉いさんみたい。再々婚しないでずっと仕事して、海外に出張しているらしい。話は来月になるね」
「じゃあ今は嵐の前の静けさか。でも超えなきゃだね。タツミィが親を選ぶかあんたを選ぶかの選択にならないことを祈っている」
香代子はそう言いながら、鈍色の厚雲を見上げて言った。
「梅雨は過ぎたのに、嵐が来そうだね」