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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

 何次にも続きそうな長丁場からは抜け出せないと思っていたわたしとは違い、痺れを切らした巽はまたもや職権乱用して、加賀社長と意気投合していた香代子に言った。

「企画チームリーダーに推薦するから、アズと抜け出すことに協力しろ」

 迷いなく親指を立てた香代子の前で、巽はわたしを、上へ行くエレベーターの中に押し込んだ。

 笑顔の香代子に見送られながら、扉が閉まって密閉空間になった途端、巽はわたしを壁に押しつけ、ねっとりとわたしの唇を奪うと、額同士をこつんと合わせながら、耳に囁く。

「部屋、取ってある。本当は俺のマンションに呼びたかったけど、俺、今日は家まで待てる余裕ねぇんだ。アズにがっついてもいい?」

 了承の意で抱き付くと、頭上に熱い唇が落とされる。

「安心しろ。ちゃんと俺とお前の明日の欠勤届は出してあるから」

 専務様は抜け目がない。

 明日は金曜日だ。その次の土日も家に戻れない気がするけれど、十年分を取り戻すには短いくらいだ。






 ワイン色のカーペットの上には、わたし達のスーツと下着が放られている。
 皺を気にする余裕がないほど、わたし達は切羽詰まったように服を投げ捨て、ダブルベッドの上に生まれたままの姿でいた。

 巽の身体は十年前よりも引き締まった男のものであり、改めると妙に気恥ずかしくて緊張してしまうけれど、肌を重ねれば互いの鼓動の音が同じように早いことに安心する。
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