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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

***
重役応接室は、広報担当ごときが立ち入ることが出来ない、ある種聖域だ。
革張りのソファとテーブル、観葉植物くらいしかない意外にシンプルな部屋で、三嶋社長のように煌びやかな成金趣味の内装が施されていると思っていたわたしは、些か拍子抜けする。
とはいえ、空気は今にも破裂しそうなほど不気味に膨れあがり、そしてそんな空気を作りだしたであろう巽が、笑いのないやけに整った顔でじっとわたしを見ていた。
正直逃げ出したい気分ではあったけれど、手を拳にして力を入れ、覚悟を決めて中に足を踏み入れる。
「お待たせしました。専務、先ほどは醜態をお見せして、申し訳ありませんでした」
なんでもないというように動揺を隠すだけで内心ぜぇぜぇしてしまうけれど、社の方針だかなんだか知らないが、わたし達ルミナスの資産だけを奪って社員を排除しようとする巽に怒りを覚えるわたしは、元義姉だった矜持に賭けて、もう二度とあんな失態は見せないと意気込む。
「大丈夫か、藤城。具合はどうだ?」
巽が口を開く前に、怜二さんが身体をねじ曲げるようにして心配そうな顔を向けてくる。
「大丈夫です。課長もご心配おかけしました」
にこりと微笑むと、怜二さんはほっと安堵の表情を見せた。
「無理しないでね、杏咲ちゃん。巽くんが無理難題言い出すものだから」
由奈さんがぷうと頬を膨らませて、可愛らしい怒り方をして巽の肩を拳で叩いている。
人見知りの由奈さんの怜二さんに対するような気安さを見て、少し心が黒くなりかけたけれど、意志の力でなんとか黒いもやもやを霧散させる。
「由奈さんにもご心配おかけしました。驚きのあまり、くらりとしてしまって。でも大丈夫です」
わたしは笑いながら、怜二さんの隣に座る。
向かいには、喜ぶ由奈さんと巽がいる。

