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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで
***
アムネシア――。
丸みある花弁が、薄茶がかった薄紅色から段々と薄紫色に変わっていくミステリアスな薔薇で、花言葉は「記憶喪失」だという。
この薔薇にわたしが惹かれたのは、まだ小学生の巽と花屋で見つけた時からで、以来巽が一時期、誕生日祝いにとアムネシアを一輪、贈ってくれたこともあった。
一人暮らしをしながら大学を卒業したわたしは、アムネシアの社名を持つ有名な化粧品会社に入りたいと就活を頑張ったが、最終面接で落とされてしまった。
今はルミナス化粧品という、中堅で年齢層が若い女性をターゲットにした会社にて、商品開発部という新規開発部門で広報担当として、悪戦苦闘の日々を送っている。
――この売女!
十年前、わたしと巽の睦み合いを見てしまった義母は、凄まじい剣幕でわたしを罵り、わたしの頬が腫れるほど何度も平手打ちをした。巽が必死に庇おうものならさらに逆上し、その結果、巽を連れて家を出た義母は父と離婚し、巽共々他人より遠い他人になった。
なぜあの日、義母だけ先に家に戻っていたのか……。
それはちょうど、父がつまみ食いをしたらしい若い部下が、妊娠したかもしれないと泣いて訴えた現場に居合わせたからで、その妊娠はなかったものの、わたしと父、ダブルで義母を裏切ったことになる。
わたしの初恋は、義母に見られていた時点で砕け散って、肉体関係を伴うあの恋は、害悪だったという罪悪感と嫌悪感だけを深く刻まれたような気がする。
そのおかげで、わたしは――。