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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「杏咲(あずさ)、凄く濡れていたけど、そんなに気持ちよかった?」
付き合って二ヶ月になる、四歳年上の弱冠三十一歳で異例の出世をしている課長の広瀬怜二さんが、シティホテルのベッドでわたしに腕枕をしながら、目尻を下げて優しく微笑んだ。
いつも流している焦げ茶色の髪は汗でワックスが取れ、ストレートに垂れた長い前髪から覗く顔は、職場で見る顔より幾分幼く見えるものの、優しく爽やかに整っていることには変わらない。
照れるようにして抱きついて誤魔化したわたしの身体は濡れない。
あの初めての体験でのショックが、十年経ってもいまだ尾を引いているらしい。
もう記憶の中の巽の姿は掠れてよくわからなくなっているというのに、濡れない身体が原因で、過去付き合った男達とは駄目になった。
――どうして、きみを濡らすことが出来ないんだろう、俺は。下手でごめん。
男なんて要らないと思いながらも、真っ赤な顔で何度も告白され絆されて付き合った、優しい広瀬課長を傷つけたくないと、事に及ぶ前にトイレで、ネットで密やかに買ったラブローションをつけている。
セックスがなければ、広瀬課長……怜二さんと一緒に居ると自然体でいられると思う。
巽に抱いていたような燃えるような激しさや、切なくなるような苦しさは感じないが、穏やかになるこの気分が大人の愛なのだろうと思う。
だけどセックスだけ、駄目だ。
それは彼が下手だからとかではない。彼にはなんの非はない。
きっと彼以外にも駄目なのだろうと思う。
いつ、わたしはセックスに対する罪悪感を消せるのだろう。
セックス史上主義ではないけれど、やはり愛の行為と思う以上、セックスが自然に出来ないと、相手に愛がなくて裏切られている気がするのだ。

