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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実
 
「広瀬さんのところに泊まろうとしていた、そんなところでしょう。そんなの、場所が変わったってやることはやれるでしょう」

 巽はふんと鼻を鳴らしながら言う。

「やれないようにしたのは誰ですか。返して下さい、持って行ったでしょう? ラブローション」

 巽が帰った後、床に転がっていたはずのラブローションは消え去っていた。
 怜二さんとさようならをしたら、あんないかがわしいものを自分なりに葬り去るつもりのわたしは、なんとしても回収したい。

「僕は知りませんよ? ベッドの下にでも転がったんじゃ?」
「ありませんでした! ねぇ、返して下さい」
「無理」
「お願いします、専務」

 巽は眉を顰め、専務の仮面を外した。

「そんなにお前、あの男とセックスしたいの? それとも、隣の部屋に居る俺に聞かせたいの? 偽りの蜜でお前がどう乱れるのか」

 そして端正な顔を険しくさせると、威嚇するような低い声で言った。

「お前は、濡らすことが出来ないあの男とセックスしたいと思ってしてるわけ? それともセックスしたいのに、あの男以外に男がいないってこと?」

 心がきりきりと痛む。

「セックスは、義務じゃねぇぞ? 男より女の方が負担かかるんだ。もっとちゃんと相手を選べよ。お前、セックス狂じゃねぇんだろう?」

 巽は、十年前に巽に身体を拓いたことはどう考えているのだろう。
 そして昨夜、わたしを抱きたいと欲情した彼は、わたしが身体を拓くことをなぜ願ったのか。
 怜二さんがいるのに、巽にも抱かれる軽い女だと思ったからじゃないのだろうか。
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