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囚われる…
第3章 楼蘭
「幾つか質問をしてもいいか?」
「仕事の取材はお断りだ。但し、お前が全くの個人的興味を俺に抱くのであればお前の質問に答えてやらない事もない。」
妙に回りくどいと感じる。
「俺の個人的興味ならいいのか?」
「お前が本当に俺に興味があるのならな。」
「あるよ…。」
ない訳が無い。
幻の頭を求めて謎の男に謎の店…。
フリーとはいえジャーナリストの自覚はある。
「あんたが頭か?」
「飲まないのか?」
はぐらかすように答えた男が俺の烏龍茶のグラスに指先を入れて氷を沈める。
嘘は言わないが言いたくない事ははぐらかすというやり方か?
ならば…
「あんたの名前は?」
質問の形を変えてみる。
「名前が必要か?」
「あんた個人に興味がある質問ならいいんじゃなかったのか?」
しばらく男が沈黙をする。
やはり答えたくない事には答えないつもりか?
「馨(けいじ)…、馨(かおる)と書いてけいじだ。」
穏やかな笑みを浮かべた男がそう答えた。
「馨さん?」
苗字じゃないよな?
「そうだ。匠。」
名前を呼ばれてゾクゾクとする。
この声のせいか…、腹の底から湧き上がる恐怖のせいか…?
マジックミラーのガラスにへばりつくようにして店を見下ろしていた俺の後ろにバーボンの入ったロックグラスを持つ馨が立った。
うなじを馨の指先が撫でて来る。
さっき、俺の分のグラスで氷を弄んでいた指先だからやたらと冷たい。
「変なところ触るなよ。」
首を竦めて馨から逃げようとした。
馨の手がマジックミラーの壁を押さえるように置かれているから逃げ場はない気がした。