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囚われる…
第7章 忘却の彼方…
微睡みの中で馨のキスが続く。
「おやすみ…、匠…。」
馨の腕の中に居る限り俺にはなんの恐怖もないのだという安心感で眠った。
ピッ…ピッ…ピッ…
何かの機械の音がする。
ゆっくりと目を開ける。
「匠…?大丈夫か匠…?」
嗄れた声がする。
ばぁちゃん…。
そう言おうとするけど喉がカラカラで何も音が口から出ない。
白衣を来た男から
「見えていますか?これ、何本ですか?」
とピースサインをされる。
「に…。」
変なマスクが口に付けられていた。
マスクが外されて、ばぁちゃんが水差しを俺の口に入れてくれる。
ただの水なのに、まさに五体に染み渡る。
白衣の男が俺の身体を触り倒す。
やめろよ…、男に触られても嬉しくねぇよ。
そんな事を考えた。
「もう…、大丈夫ですよ。2、3日は経過を見て、問題がなければ退院が出来ますよ。」
白衣の男が笑顔でばぁちゃんに言う。
ばぁちゃんはただ泣きながら
「ありがとうございます…、先生、ありがとうございます…。」
と繰り返し頭を下げていた。
「先生?退院…?」
かろうじてそれが言えた。
「事故の事を覚えていないのかな?」
「事故?」
「名前は言える?」
「岡野 匠…。」
「岡野さんは、おばあさんの家に向かっている途中で事故に会われたんです。覚えていませんか?」
全く身に覚えがない。
「3週間も意識が戻らないから…。」
ばぁちゃんがまた泣きそうな顔で俺の顔を撫でて来る。
「3週間?」
「一時的な記憶喪失でしょう…。身体にはどこも怪我がありませんから…。明日、もう一度、脳の検査をして、出血などがなければ、問題はありませんよ。」
医者がばぁちゃんを安心させるように優しく言った。