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囚われる…
第7章 忘却の彼方…



ばぁちゃんの家に向かう途中に事故に会った?

全く覚えていない。


「今日は何月の何日だ?」


ばぁちゃんに聞いてみる。


「もう…3月の終わりだよ…。匠が3週間も目を覚まさないからばぁちゃんは本当に心配をしたんだよ。」


何度も何度も俺を確認するようにばぁちゃんが俺の顔を撫で続けた。

それから3日後に無事に退院をした。

事故に会ったというがその前から記憶があやふやで俺は全く何も覚えていなかった。

最後の記憶が去年の12月初め頃の記憶…。

つまらない男にインタビューをしたくらいしか覚えていない。

だけど、あの程度のネタじゃ、きっと雑誌社に持って行ってもボツになるだろうと諦めた。

ほぼ3ヵ月分の記憶が全くないまま、ばぁちゃんがあまりにも俺の心配をするから東京の家を引き払い、ばぁちゃんの家に戻った。

田舎の漁業町…。

それでも役所の観光課とやらが町起こしに使うPR用のHPに載せる写真やふるさと納税の返品の写真などの仕事をくれるから、ばぁちゃんと2人なら細々と暮らすには問題はなかった。

もう漁業組合では働いていないばぁちゃんだが、知り合いの漁師が余った魚をくれたり、家の庭に小さな畑を作っているから自分達が食べる分には全く困らない生活だった。

ただ、フリーライターを辞めて心のどこかには、ぽっかりと穴が空いている気分だけを感じていた。

大した、ライターじゃなかった。

だけど、何かとてつもなく大きな仕事をやっていたのに…、それを忘却の彼方へと押しやってしまったような感覚だけが頭の中でチラつく。

まぁ、そんなの夢の話だよな…。

3ヵ月の記憶がない自分に変な妄想で夢を描いているのだと自分に笑っちまった。

俺には何もない人間だから…。

ばぁちゃんの家でひっそりとばぁちゃんと暮らすのがお似合いな男…。



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