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囚われる…
第8章 囚われる…



「あの?どこかでお会いした事がありますか?」

「さぁ…。」


微妙なはぐらかしを受ける。

何故か、彼の声を聞くたびに心臓が高鳴り、身体が熱くなって来る。

かなり薄暗くなって来た。


「あぁ…、花火が始まる。」


カメラをケースにしまい込み、花火を撮影するポイントに移動をしようとした。

彼はその場から動かない。

やはり知らない人なのか?

このまま彼と離れる事に後ろ髪を引かれる思いを感じる。


「観光ですか?」

「あぁ…。」

「良ければ…、花火を特等席で見ませんか?」

「特等席?」

「役所からの依頼で花火を撮影するんです。撮影ポイントが立ち入り禁止エリアだから人混みで嫌な思いをせずにゆっくりと花火を見れますよ。」


俺の言葉に彼がゆっくりと笑う。

ドクンッ…

男に聞こえそうなくらいの心臓の音がする。

この笑顔を俺は確かに知っている。


「行ってもいいのか?」


穏やかな笑顔で男が聞いて来る。


「ええ…、是非…。」


変に狼狽えてしまう。

撮影のポイントまで無言のまま男と歩いた。

だが、この感覚…。

間違いなく知っている。

何故だ?

少し頭痛がする。

無理矢理に何かを思い出そうとすると最後は激痛が身体中を走る。

その為に、俺が空白の3ヵ月を思い出そうとする事をばぁちゃんが嫌がった。


「顔色が良くないが大丈夫か?」


男が心配そうに俺を見る。


「あぁ…、すみません、時々、軽く偏頭痛があるだけです。」


男に向かって無理な笑顔を作る。

彼はまた切ない顔を俺に向ける。

撮影のポイントならこの男と2人きりになれる。

さっさと仕事を済ませて男ともっとしっかりと話をしなければならないという衝動が湧き上がる。



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