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囚われる…
第8章 囚われる…
なんだ?何が足りない?
少し顔を上げて彼を見上げてみる。
俺よりも背が高くカッコイイなとか思っちまう。
俺を見下ろして、また彼が切ない顔をする。
ゆっくりと彼の顔が俺に近付いて来る。
近い…。
そう思うくらい、彼の顔は目と鼻の先にある。
肩に置かれた大きな手…。
指が長く、綺麗で整った形をしている。
全てを間違いなく知っているのに…。
全く思い出せない…。
彼の唇が俺の唇に触れそうになるまで近付いた瞬間…
ドンッ!
と1発目の花火が上がった。
彼はスルリと俺から離れていた。
俺は慌ててカメラを構えて仕事をする。
今…、彼は俺にキスをしようとしたのか?
焦る気持ちで上手くシャッターが押せない。
心臓は壊れそうなほどにバクバクとする。
彼のキスを嫌だと感じなかった。
むしろ、早く…とか思ってしまった。
俺は変態か?
笑ってしまう。
少し冷静になって仕事をした。
時々、彼を見ると彼は目を細めて懐かしいものを見るように花火に見入っていた。
メインになる花火の撮影が大体終わると少し余裕が出来た。
「特等席のご感想は?」
冗談っぽく彼に聞いてみる。
泣きそうな顔の彼が俺を見る。
「綺麗だ。いい思い出になるよ。」
そして…、音がないまま彼の唇が動いた。
た・く・み…
時間が止まるような感覚…。
彼の手に触れていた。
「頼む!教えてくれ…、あんたは一体誰なんだ!?」
突然の俺の変な質問に彼は目を見開く。
しかし、その顔は驚愕の顔ではなく哀しみの顔だ。
「君に答える事は出来ない…。」
苦しそうに絞り出す声で彼が言う。