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イかせ屋…
第5章 キス



「行って来る。」


まるで新婚の夫が仕事に行くみたいに玄関で昌さんが私の頬にキスをする。


「いってらっしゃい。」


そう答えるしかない。


「ヒロ、梓には…。」

「わかってますよ。手なんか出したりはしません。」

「指1本触れるな。」

「はい…。」


ヒロ君には厳しい昌さん…。

暇すぎてヒロ君と立派な縁側で立派な中庭を見ながらお茶を飲む。


「ねぇ、ヒロ君。」

「ヒロさんと呼べ。」

「幾つ?」

「22…。」


年下じゃない。

ヒロ君で充分。


「ヒロ君もヤクザ?」


スカジャンのヒロ君に聞いてみる。


「俺は昌さんの見習い中、今は親父の世話になりながら昌さんに付いて勉強をしてんだよ。だから、本当はお前なんかの面倒を見てる暇なんかないんだ。」


なんか偉そうに言う。


「見習いって…、まさか…、イかせ屋?」

「そうだよ。悪いか?」


スカジャン男がイかせ屋って無理があるとか思う。


「その格好だとね…。」


ヒロ君が嫌な顔をする。


「好きでこんな格好をしてんじゃねぇよ。これは訓練用の服だ。」


スカジャンで何の訓練よ!?


「見た目だけじゃない男になる為だ。だから俺も清さんもわざと変な格好をしてんだよ。」


ふてくされるヒロ君…。


「清さんもイかせ屋志望?」

「清さんはさん付けかよ?」


つまらない事にこだわる子だなぁ…。

さんでも君でもいいじゃない?


「大体、イかせ屋なんてなんでやりたいの?そんなの仕事じゃないでしょ?」


昌さん1人でも信じられないのに、イかせ屋になりたいって男が2人も修行中だとか聞いても、さすがに信じられない。



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