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イかせ屋…
第6章 伝統
昌さんの背中を泡だらけのスポンジで洗う。
「痛くないの?」
「スポンジが?」
「刺青…。」
「痛かったな。彫る時は気を失う奴もいるくらいだからな。」
昌さんが笑って話をしてくれる。
半年の時間をかけて彫るらしい。
「ヤクザだから?」
「伝統だから…。だから家族で彫ったのは俺と親父だけ。昇や兄貴は入れてない。」
「伝統…。」
受け継ぐ覚悟の為に昌さんは刺青をしたらしい。
「兄貴に言わせりゃ、馬鹿がする事らしいがな。」
「素敵だと思います。」
「いや、身体に悪いし、自分を傷つけてるだけだから…、間違いなく馬鹿がやる事だ。」
寂しく昌さんが笑う。
「それでも入れたんですよね?」
「馬鹿じゃなければ古い伝統なんか受け継げないからな。」
冗談っぽく言うけれど、それだけ古い伝統とは重いのだと感じる。
時代が変わったのだから止めてしまえばいいというのが新しい考え方。
だから昌さんは古いまま残る決意を刺青という形にしたのだと思う。
お風呂から上がり、着替えが済むとダイニングでの朝食はまた昊さんの冷たい視線を感じる。
昇君はニヤニヤとする。
「夕べは随分と激しかったんだって?」
昇君が私に言う。
なんで!?
全部、この家の人にはバレてるの!?
驚愕するしかない。
「ヒロが寝不足になるほどって俺も梓さんの可愛い声を聞きたいんだけど?」
茶化すように昇君が言うと昌さんが怒る。
「ヒロは修行が足りな過ぎる。昇も余計な事は言うな。梓に失礼だろ?」
昌さんはそう言うけれど、人様の家であれだけアンアンと声を出してる私にも確かに問題はある。
「まぁ、さっさと借金を済ませるんだな。」
冷たい昊さんがそう言ってダイニングを出て行く。