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イかせ屋…
第6章 伝統



恥ずかしい…。

毎晩、あの声がこの広いお屋敷で響き渡ってる事実に死にたくなる。


「梓が気にする事はない。あそこは離れになってるからこっちの母屋には聞こえてない。」


私の頬にキスをして昌さんが笑う。

でもヒロ君は毎晩のように聞いてると言われたから泣きそうになる。


「ヒロにも嫌ならヒロも人払いをしてやる。梓に嫌な思いだけは絶対にさせるつもりはない。」


昌さんが優しいから、これ以上はこの問題を気にしないと決める。

朝食の後、今日は昌さんとお出掛けだった。

しかも、車には乗らずに2人だけのお出掛け…。


「恋人だからデートをしないと変だろ?」


昌さんの笑顔にドキドキとかしちゃう。

デート!?

お金のない雄君とはほとんどなかったイベント!


「デート!?」

「デート、梓はどこに行きたい?」


そんな事を聞かれても…。


「昌さんにお任せします…。」


俯いてそんな言葉しか言えない。

今日の昌さんはサマーセーターにスラックスとカジュアルなスタイル。

背が高くてかっこいいからちょっと目立つ…。

駅に向かい2人で電車に乗る。

席は空いてるのに昌さんが座ろうとはしない。


「梓は座れよ。」


私だけを座らせて私の前に立つ。

紳士なのは見せかけでなく生まれついた習性なんだと感じる。

ポピュラーに新宿に出た。


「とりあえず、定番の映画に行くか?」


肩を抱き、スマートに歩く昌さん…。

街中でも昌さんのエスコートは紳士なまま…。

昌さんが車道側を歩き私には安全な方を歩かせる。

人や自転車が来れば肩を必ず引き寄せて立ち止まる。

忙しない移動はしない…。

スピードも私に合わせて緩やかで、余裕のあるエスコート…。



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