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イかせ屋…
第8章 決別
その部屋なら今夜からすぐに住めると言うから昌さんの好意に甘える事にする。
実際、雄君は証拠不十分で既に警察からは釈放をされてる。
一応、私には2度と近寄ってはいけないという接近禁止命令だけは受け入れたらしい。
だけど雄君を取り巻く借金取りにまでその命令は出ていない。
昌さんと離れる以上、新たな恐怖と私は戦う必要があるから、今しばらくは昌さんに甘えるしかない。
昌さんが用意をしてくれたマンションはオートロック付きのインターホンにもカメラが付いた立派なマンションだった。
「こんな立派なマンション!?これだと家賃が安すぎませんか?」
「昔、俺が住んでたけど今はただの空き家だから無駄に置いておくなら貸した方がいいんだ。」
ずっと、ただ優しく微笑む昌さんに胸が痛くなる。
曽我家にあった私の荷物が曽我家のお兄さん達の手により、あっという間に運ばれて引っ越しは1時間もかからなかった。
「コーヒーくらい飲みませんか?」
あれから指1本私に触れようとはしない紳士な男に聞いてみる。
ここで別れたら2度会えなくなるような予感がする。
「ありがとう、だが仕事だから帰るよ。何かあれば連絡をしてくればいい。」
昌さんはそう言うと私の部屋から出て行く。
1ヶ月ぶりの孤独…。
広い部屋に1人だという実感が湧くのに1時間以上もかかってしまった。
全てが終わったんだ。
ここからが本当に新しい自分の始まりなんだ…。
過去を綺麗に忘れて新しい自分として胸を張って前を向いて生きてく。
普通なら嬉しさや期待感にワクワクとするところ。
なのに…。
俯く私の目の前にあるフローリングの床には、ぼたぼたと雨が降り私は顔を上げられない。
「うひぃ…、ヒック…、ゔぇぇぇ…。」
今は泣きたいだけ泣く。
1晩だけしっかりと泣いたら明日からちゃんと頑張ろう…。
そう自分に言い聞かせながら、止まらない涙を眺め続けるだけだった。