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流されカノジョ
第1章 入社式から1週間


夜10時前の駅ビルが並ぶ通りは店の灯りで明るくて、生温い春の風が頰を撫でる。

石山が少し遅れて彩の元に来て、駅まで歩こうかと足を進めた。

「カラオケ代、出します」と遅れて続いた彩に石山はニヤリと笑った。

「それはいいから、こっちにしよ」

お財布を出した彩の手を鞄に戻し、そのまま鞄を受け取り手を絡めた。

「背も小さいから、手も小さいね」そう言って歩幅を合わせて歩く石山に、大学の時の先輩とは違う大人の余裕を魅せられた気になっていた。




「石山さんは、彼女いるんですか?」

駅までの道のりは石山がいろんな話を面白おかしくしていたが、改札を抜けて駅のホームに入り電車を待つ間の静寂は彩が破った。

「いたらここまで送らない、彼女には俺以外見て欲しくないから、
俺も彼女以外に優しくしないんだ」

独占欲強いんだ、と耳元でそっと囁いたのは電車が反対のホームに着く騒音に負けないようにするためなのか、または耳まで紅くなった彩をからかっているのか。

キュンとお腹の奥が甘く疼いてしまった彩は

「こ、ここまででいいです!石山さん、反対ですよね!」と声をあげた。

「ちょうど、反対側に来てますし、もう酔いも覚めてます!
今日はありがとうございます!」

早口になって赤い顔を隠すために俯いたから石山の表情は見えなかったが、やがてつま先が方向転換しようと動いた瞬間にパッと顔をあげた。

ちゅ、と唇が重なった。

「家まで送るよ」

反対のホームから電車は出発して、何が起きたかわかってない彩にもう1つキスをした。

そうして、やっと到着した電車に乗り込んで、彩の最寄駅まで2人は無言のままだった。

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