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3年目のプロポーズ
第1章 3年目のプロポーズ
「でもねぇ、美樹……“別れよう”なんてもう絶対に言わないでよ」
寒空の下、ベランダで優馬は恋人に語り続ける。
「せっかくチェーンまで用意して……良い雰囲気になったら殺してあげようと思ったのに……怒った勢いで危うく君の首を締めるところだったじゃないか」
優馬の白く美しい指が、彼女の髪を丁寧に梳かす。
「もう金輪際駄目だからね? 絶対」
“さて……”と呟いて、優馬は空を見上げた。夜の生暖かい風に乗せられ、灰色の雲がゆらゆらと流れてゆく。
そして────彼の目が思わず細まる。
なんとも美しい月が僕らを見守ってくれているではないか。
「神に誓うよ」
優馬はにこりと微笑んだ。それは生前彼女が好きだった、神様のような、美しい笑顔。
「僕が君を誰よりも愛してあげる」
優馬は彼女の唇に、自身の唇をそっと重ねた。
それは彼女が夢焦がれていた────結婚の、誓いのキス。
「だから一生────僕のそばにいてね?」
男が死体と口付けを交わすのを、大きな月と、無数の星たちが見ていた。
《完》