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SOS
第3章 無限と有限
それから更に10年以上が経過した。
木崎は相変わらず写真に没頭し、いまや世界各国で展覧会を開くほどの実力者になっていた。
夫婦仲もよく子宝にも恵まれ、2人の娘を愛情を注いで育てていった。
そんなある夜、木崎は悪魔を呼び寄せた。
「……これでお前と会うのも最後になるのか」
悪魔と出会ってはや10年以上。年を取り見た目も老いた木崎とは逆に────悪魔は出会った頃のまま、相変わらずの姿でそこにいる。
「……そうだ。だが、俺はお前をずっと見ている。たとえお前がどこにいようと、お前の心の声は俺の耳に響いて伝わってくるからな」
「そうか……」
木崎は夜空を見上げた。
「お前と出会えて、思い通りの人生が歩めてよかった」
思い返せば不運まみれの人生だった────しかし余命宣告を受けたあの日から、木崎の運命は思わぬ方向に変わっていったのだ。
「悪魔に礼なんてするものじゃないが……それでも俺は幸せだった」
ありがとう、と木崎は告げた。
「まぁ、死んだら地獄行きだけど」
「……」
「それでも俺は後悔していないぞ」
木崎は満足げに微笑んだ。幸福に満ちた人間の、清々しい笑顔だった。