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SOS
第4章 永遠と一瞬
悪魔────それは人間の不幸が大好物の生き物。
人間の願いを叶える能力が悪魔に与えられているのは、叶えたその後に絶好の楽しみが待っているからだ。
悪魔が人間の願いを叶える────その本質は、等価交換などという厳然たるものではない。全ては悪魔が楽しむためのお遊びに過ぎないのだ。
悪魔が指定した、80歳で終わりを告げる木崎の人生。予定通りに行けば、あと30年で彼はようやく死を迎えられる。
しかし、木崎自身にはもう分からないだろう────今日の日付も、現在の自分の年齢も。
彼が唯一分かるのは、一週間に一度、何者かに身体を蹂躙される恐怖だけ。
「……ふっ」
悪魔は不敵な笑みを浮かべ、じっくりと木崎を見つめている。が、突如無表情になった。
最後の願いを叶えてからというもの、木崎を取り巻く残酷な現実があまりに面白く、こうしてずっとそばで観察してきたが────
しかしもうそれも飽きてしまった。
「お前はもう用済みだ……木崎」
悪魔は部屋をすり抜けると、建物の屋上に降り立った。
悪魔はゆっくりとその赤眼を閉じると、意識を集中させた。
街中にいる無数の人間の声が、悪魔の耳に直接響く。
「……!」
そしてある声を聞いた途端、その赤眼が妖しく光った。死の恐怖よりも大きい、欲望の叫び声────
悪魔は翼を広げると、勢いよく空を舞った。
「待っていろ、人間」
俺がお前の願いを叶えてやる────
全ては────人間であるお前を、地獄に堕とすために。
【完】