この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
アゲマン!
第11章 父親の謎
龍平が運転をする車は、そのまま人里を離れた山へと更に進んだ。
冬の落ち着いた趣きが好きな人ならば気にはならないのだろうが、不安を抱えた精神状況では、この趣きは孤独感を強調し、淋しい景色にしか見えない。
流れる景色を眺めると、枯れた白樺の並木がより一層その淋しさを引き立てているように沙那は感じる。
再び自分が孤独になるのではないかという不安…。
その不安に沙那が身震いをした瞬間だった。
「着いた…。」
龍平がある家の前で車を停めていた。
周囲には民家らしい民家も存在せず、ただあるのは山へと続く道と雑木林、そして白い木の柵に囲われたその家だけ…。
家というよりも、別荘と呼ぶべきか?
外観はログハウスのように見えるがテラスなどが付いており、かなり立派な洋館という造りの建物。
庭もよく手入れをされている。
車を降りた龍平がその別荘を眺めながらタバコを口に咥える。
龍平がこの家に用があると言いながら、その家に入る事を躊躇っているようにも見える。
「ここは?」
タバコに火を点けた龍平に問う。
龍平がゆっくりとタバコの煙を吸い込む。
風が吹き、タバコの先からジリジリと音を立て火の粉を飛ばす。
「山端 敬一郎(けいいちろう)の別荘だ…。」
龍平が重い声で答える。
山端 敬一郎…?
沙那はなんとなく聞き覚えがある名をぼんやりと考える。
「日本画家の鬼才と言われた人物らしい…。」
龍平が沙那に説明の補足をする。
「山端って…、あの山端?」
沙那が知る山端 敬一郎は美術の教科書に載っている人物だけだ。
若くして、この世を去った山端は遺された作品数が異常に少なく、彼が晩年に発表したという4連大作『花鳥風月』の屏風絵は数十億の値が付くとまで言われている。