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アゲマン!
第11章 父親の謎



老婆は鈴木 里(さと)…。

里は田舎の農村の生まれだ。

里が居た村では農家同士の見合い結婚は当たり前という小さな閉鎖的な村だった。

村の習わしに従い里も年頃には極普通に見合いをして結婚をした。

なのに結婚の5年後、里には子供が出来ないという事実が発覚をする。

里の人生はそこから一気に地に落ちる。

今まで優しくしてくれた姑達が


『産まず女を嫁に貰ったなんて…。』


と里に冷たくなる。

旦那も浮気をするようになり、里がそれを責めると暴力を振るうようになった。


「今みたいにDVだとか言って訴えられる時代ではなかったので、私は離婚だけをお願いして村を出たのです…。」


里の寂しげな笑顔に沙那の胸が痛んだ。

里は生まれて初めて都会へと出た。

しかし、都会も冷たい態度を里に向けた。

田舎から出て来た学も何もない女に働く場所はなかなか見つかる訳がなく、里が自暴自棄になった時だ。


『うちで子供の面倒を見ないか?』


そう言って唯一里に優しい言葉を掛けたのが山端 総一郎(そういちろう)、敬一郎の父親である。

総一郎は大病院の医院長という立場で秘書や家政婦を当たり前のように雇っていた。

息子はまだ5歳…。

その息子には生まれつき心臓に疾患があり、20歳まで生きるのは難しいだろうと言われていた。

そんな敬一郎の面倒を見て欲しいと里は総一郎に雇われたのだ。

敬一郎には下に3歳と2歳の弟と妹がいる。

母親はその子達の世話で心臓の弱い敬一郎にまで手が回らないという有り様。

敬一郎の病は、移植手術を受ければ済む話だ。

問題は当時の日本では子供の移植はまだ認められていないという事と、海外での移植は医者である父親の倫理観を問われるという問題があり、敬一郎の存在は山端家では暗い重荷の扱いになっているという状況だった。



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