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アゲマン!
第11章 父親の謎
里は学校へも通えない敬一郎と共に、この別荘へと移り住む。
都会よりも静かで空気の良い場所の方が敬一郎の身体の為には良いだろうという判断からだ。
敬一郎には家庭教師と敬一郎の専属の医師が訪ねて来るくらいで、後は里と2人きりという静かな生活を送っていた。
敬一郎は元々が大人しく、自分が迷惑な存在なのだと悟っているような節がある子だった。
だから、里に我儘などを言う事はなく、日がな一日、絵を描いて大人しく過ごすという静かな日々が何年も続く事になる。
「敬一郎様は次第に日本画に興味を持たれ、この自然の中で自分が感じたものを描くようになりました。」
里がとても懐かしいという顔をした。
子供が出来ない里にとって敬一郎は本当の子供以上の存在だったに違いない。
そして、敬一郎が20歳の春を迎えた。
その年は春の嵐というレベルを超えるほどの強い雨と強風が吹き荒れた。
2日間の嵐が止み、敬一郎が久しぶりに朝の散歩に出た時だ。
「この別荘の裏の小道を5分も歩けば、小さな湖があるのです。その湖の辺でボロボロの姿で倒れている理奈様を敬一郎様が見つけたのが始まりでした…。」
話の確信に向けて里がようやく触れていた。
この別荘で理奈が敬一郎と会った。
「それは…、母親が幾つの時ですか!?」
思わず沙那は聞いてみる。
里は穏やかな笑顔のまま
「まだ、18というほんの子供のようなお年頃でしたよ。」
と答える。
沙那が生まれたのは理奈が24の時だ。
もし、沙那の予想が正しければ…。
「山端 敬一郎さんが私の父親…?」
沙那は龍平を見た。
龍平は黙ったままだ。
里は一度コーヒーを入れ直すと、再び昔話へと戻っていた。