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アゲマン!
第11章 父親の謎
敬一郎に拾われた理奈は三日三晩を熱でうなされた。
うわ言で理奈が
『帰らない…、絶対にあの家には帰らない…。』
と繰り返す。
沙那は多分、理奈が川中の家から家出をしてすぐの事だと思った。
熱が下がり、目を覚ました理奈はすぐにこの別荘からも逃げようとした。
それを慌てて止めたのは里だ。
身体の弱い敬一郎が必死に理奈の看病をしたのに、その恩を裏切るのかと里は理奈を責めた。
ただ理奈は
『私がここに居ると知られれば、あなた方に更なる迷惑をかける事になるかもしれない。』
と答えた。
あまり語らろうとしない理奈に、里は自分も一度は経験をした村にはこれ以上は居られないという思いを思い出した。
理奈は家族から逃げている。
里も家族から逃げ出し、敬一郎に救われた。
敬一郎は穏やかな笑顔で理奈を受け入れた。
自分はもう永くない…。
敬一郎がそれを理奈に伝えた時の理奈の顔が忘れられないと里が言う。
「しばらくは、また静かな日々が続きました。」
敬一郎が絵を描いて、理奈は黙ったまま敬一郎に寄り添うという静かな日々。
そのうちに敬一郎が理奈に勉強をさせるという日々が始まった。
理奈を大学に通わせると敬一郎が決めた。
敬一郎が亡くなれば、再び理奈は逃亡をする生活になるかもしれない。
ならば、理奈に1人でも生き抜く力を与えたいと敬一郎が言い出したのだ。
「理奈様は黙って、それを受け入れました。」
まだ、その頃は敬一郎は無名の画家だった。
理奈は真面目に勉強をし、その地元の大学の法学部へと通い出す。
理奈は頭の良い少女だった。
誰よりも勉学に勤しみ、常に静かに敬一郎に寄り添うだけの慎ましい女だったと里が言う。