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アゲマン!
第11章 父親の謎
なのに、その暮らしはある1通の手紙で大きな変化を迎える事になる。
敬一郎の遺言で敬一郎の遺産は全て理奈と里に譲るという事になっていた。
敬一郎の遺産と言っても無名画家の遺した絵だけだ。
しかし、その手紙はある美術館の日本画の公募展で敬一郎の絵が最優秀作品に選ばれたという知らせであった。
『花鳥風月』敬一郎が最後に遺した作品だ。
当然ではあるが里は我が子のように可愛がった敬一郎の絵が世に認められた事を喜んだ。
だが、理奈は違った。
『なんて事を…!?』
理奈は驚愕の顔でその手紙を見た。
すぐに敬一郎が有名になり、ここに人が押し寄せる事になるからと理奈がここから沙那を連れて逃げると言い出した。
里には理解が出来なかった。
それでも理奈の決心は変わらず、敬一郎の遺産も全て要らないとまで理奈が言う。
「その為に、敬一郎様の絵の管理人として私だけがここに残る事になりました。理奈様はいつか自分の亡き後に沙那様がここへ帰って来た時には父親の遺産を分けてやって欲しいとだけを言われてここを出て行きました。理奈様とはそれきり連絡もなく会う事もありません…。」
里は再びボロボロと涙を流し、アンティークなソファーの肘掛けに顔を隠すようにして泣き崩れた。
敬一郎が守れなかった約束…。
理奈のアゲマンを利用したという事だろう。
敬一郎が沙那の存在を知っていたかは定かではない。
ただ、後に遺された里と理奈の為に何かを遺したいと敬一郎は考えてしまった。
それは、川中の家から家出をした理奈にとっては危険な事であり、もし理奈の能力を知る人間が居れば敬一郎の作品を汚す事にもなりかねない。
だから、理奈は沙那を連れてここを離れた。
理奈には敬一郎から貰った1人でも生きていけるという術があるからと都会へ出て弁護士となり、沙那を守り育てる事にしたのだ。