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アゲマン!
第1章 始まった謎
故に、沙那にとって母親の死はあまりにも突然過ぎた出来事であり、それを受け入れる準備も何もないまま今夜の通夜となったのである。
もしも母親が沙那の目の前で倒れるなどのハプニングがあれば、もう少し沙那も感傷的な気分になれたかもしれない。
だが実際には沙那の母親はしばらく仕事が忙しいとだけを沙那に言い、なかなか家に帰る事もなく沙那とは顔を会わす事すら避け続ける母親だった。
そのまま母親が亡くなる前日に沙那は突然母親が入院中である病院からの連絡をやっと貰うという暴挙を母親から受けたのだ。
沙那が慌てて、その病院に駆けつけると母親は朦朧とした意識の中で
「沙那…、大丈夫よ。貴女なら大丈夫よ。」
そんなうわ言だけを繰り返し、息を引き取った。
何が大丈夫なのよ!
この状況で沙那には悲しみよりも怒りが湧く気持ちの方が強かった。
秘密主義で弁護士をやっているという以外は何も知らない母親…。
仕事、仕事で沙那とはほとんど一緒に過ごす事はなく、沙那の面倒は家政婦任せだった母親…。
その家政婦すら沙那が高校を卒業すると辞めさせてしまい
「もう大人なんだから自分の事は自分でしなさい。」
と言う母親だった。
そのせいで沙那は少し大人びた気丈な女性になったのは間違いないだろう。
葬儀場を出た沙那と美春の2人はもう深夜であるからとタクシーに乗り、沙那が母親と暮らして居た家へと向かった。
タワーマンションの一画である2LDKの部屋が沙那の家である。
本来、3LDKだったものを母親が広い間取りにこだわり2LDK仕様にしたという女2人ではゆったりとした贅沢な造りの家だ。
この部屋も母親が亡くなったという事で沙那はどうなるのかと不安になったが、母親の同僚であった宇崎弁護士からは、家などの固定資産と呼ばれる財産は既に全て沙那名義になっていると先ほどの通夜で聞かされたばかりだ。