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降っても照っても曇っても(くすくす姫後日談・その4.5)
第3章 降っても、照っても、曇っても
(…家の人に言われて果樹園で仕事してるって、そういう意味も有ったんじゃないのかしら… )
スグリ姫は、大臣がタンム卿の家は政治の中心で、サクナの家は経済の中心だと言っていたことを思い出しました。
そういう家と家の間ならば、結婚話が出ることも有り得ます。
しかも、タンム卿の家は兄弟が複数居たはずですが、サクナはそもそも跡継ぎの居ない家を継ぐために入ったのですから、次の世代をどうするかという話も今まで有ったでしょう。
ぐるぐるいろいろなことを考えたスグリ姫は、安心しろと言われる前より、却ってもやっとが増えてしまったようでした。

「何か、気になることが有るのか?」
「…ううん」
姫は考えていたことを打ち消すように頭を振ると、目の前の人にぎゅっと抱きつきました。
姫の髪で遊んでいたサクナは、姫が抱きついてきたので、髪に口づけて頭と背中を緩く撫でました。

(嫌いって言われてそのままずっと信じちゃうくらい女の子の気持ちに疎いのに、私を宥めるのは、上手なんだわね… )
姫は柔らかく撫でられながら、今までサクナにされたことで本気で嫌だったことがひとつも無いことに気付いて、ふと、不思議に思いました。

今となってはお見合い相手の殿方達よりはるかに長く一緒に過ごしているにも関わらず、嫌だと思ったことや怖いと思ったことが、一度も無いのです。
それは、99回も有ったお見合い相手の中の誰にも無かったことでした。
お見合い相手の中で一番優しく紳士だったタンム卿ですら、お見合いを中止したいと言った時の様子だけは、姫は怖いと感じたのですが。

それをもしバンシルに言ったら、「果物馬鹿とおんなじくらい姫馬鹿ですから当然ですよ、その位じゃなきゃ困ります」と言われたでしょうが、残念ながら今バンシルはここには居りませんでした。

(今考えてもどうしようもないことは、今考えても仕方無いわよ。せっかく一緒に居られる時間なんだから、どんよりは、もうお仕舞い。)
ゆるゆると撫でられている内に、もやっとしたものが少し落ち着いてきた姫は、仄かにオレンジの匂いのする腕の中で、ふうっと息を吐きました。
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