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夢…獏の喰わぬ夢
第8章 変化
それがある年、正月に新酒を用意して神棚に載せ、去年の酒を飲み干す時、
『最後の酒くらい一緒に呑むか。』
とかみさんに注ぎ、俺に注いだ。
レディーファーストなんて、女をつけあがらせるだけだってのが口癖だったから、かみさんは気味悪がってたよ。
それからすぐだった、七草粥を炊いたからと声をかけても来ないから、かみさんが呼びにいったら、
眠るようにして逝っちまってたんだな。
最期になんか言ってから逝けよ。って思ったね。
葬式の時に約束通り、神棚からまだ一週間しか経ってない酒を下ろして、包んである紙を開けた。
紙の裏にびっしりと細かい字で遺言が書いてあった。
まず、店をたたんでよいと、自分はそれしか知らない生涯だったと、
そもそも継がないで好きな仕事に就かせてやりたかった。と書いてあった。
かみさんにも大変世話になり、申し訳なかったと。
そして、俺達の為に一生懸命蓄えていたんだ。新しい道を踏み出すための軍資金にしろ。とね。
しかも、酒は一人で飲んでたのでなく、先祖に配っていたと。
爺さんは、初詣に行かずに墓参りに行って酒で清めてたと後で住職から聞かされた。